頑固で治りにくい化膿性汗腺炎(膿皮症)を
内服薬のみで治す方法があります。
化膿性汗腺炎(かのうせいかんせんえん)と呼ばれる皮膚トラブルがあります。
かつては膿皮症(のうひしょう)とも呼ばれており、おしりやわきの下、股の付け根などの毛穴に炎症がおきて膿がたまるのがこの皮膚トラブルの特徴です。当院では、この症状に対して患者さんの負担の軽い内服薬での治療をご提供しています。
化膿性汗腺炎(膿皮症)という病名がいまだあまり知られていないこともあり、患者さんは「大きなニキビがたくさん出来てなかなか治らないので診て欲しい」と言って当院を受診されます。症状自体はニキビと非常によく似ておりますが、炎症を起こしている部分が通常のニキビよりも大きい上に、炎症の数・密度も高く、また炎症が起きている範囲も広いためこの病気の知識があればすぐに見分けがつきます。
化膿性汗腺炎(膿皮症)は臀部、肛門周囲、腋窩、頭頸部、ソ径部、大腿後面、背部などの毛穴が多数詰まり、皮膚や皮下に膿がたまり炎症を繰り返す難病です。 特筆すべき特徴として、化膿性汗腺炎(膿皮症)は原因が正確にはわかっていません。
ある程度明らかになっている特徴は、
- 遺伝による要因がある
- 男性より女性に症状が出やすい
- 肥満が症状の出やすさに影響する
- 喫煙している人のほうが発症率が高い
- 20代~40代に患者が多い
という傾向です。
炎症を繰り返すことで、皮膚が「瘢痕化」と言って硬くなめし革のような状態になり、色素沈着によって皮膚の色が褐色や黒色に変化していきます。
毛穴の詰まりにより角栓が毛穴の中に蓄積し、これを異物として排除しようと身体の免疫機能が働くことが炎症の直接の原因です。炎症は膿やさらなる炎症につながり、症状が繰り返されることで慢性化につながってしまいます。ニキビにしては大きかったり長く続いてしまっているようでしたら、治療が必要です。
また化膿性汗腺炎(膿皮症)は炎症ですから、しばしば痛みを伴い細菌が患部で増殖すれば発熱することもあります。膿のたまりが破裂すると下着が汚れたり悪臭を放つなど、日常生活送るにあたって生活の質を著しく低下させることもある厄介な病気であると言えます。
それだけでなく、放置すると瘢痕化した皮膚に皮膚癌(有棘細胞癌)が高率に発生します。長期経過の中で命にもかかわる重大な病気になる可能性もあるため、そのまま放置することは避けるべきでしょう。
*同じ膿でも、ニキビが炎症を起こして化膿している場合(白ニキビが表面的に視認できるケース)と異なり、化膿性汗腺炎(膿皮症)の場合はもっと皮膚の中(奥)にぶよぶよの柔らかい膿がたまっている感じのため、見た目の雰囲気がかなり違います。
化膿性汗腺炎(膿皮症)治療として行われてきた方法としては、クリンダマイシンやテトラサイクリンなどの抗生物質を外用や内服で投与する、あるいは外科的にメスで炎症部位を切除するなどの方法が代表的な治療法です。
しかし残念ながら、これらの方法によって炎症部位が完全に治癒することはまず珍しいと言ってよいでしょう。私も形成外科の修業時代にたくさんの膿皮症の患者さんを治療してきましたが、外科的に切除しても切除しても繰り返し再発し、また抗生物質によるコントロールもほとんど効を奏さず、今の医療でもその状況は変わっていません。
そんな中、2014年に個人開業した後に、ニキビ治療に用いてきた内服薬「ロアキュタン」が膿皮症にも実は効果を発揮することが徐々に分かってきました。今まで顔面、頭部、臀部などの化膿性汗腺炎(膿皮症)に使用しており、かなり良い治療成果を残すことに成功しています。
私は現在あくまで現場の臨床家であり研究者ではないため、何故ロアキュタンが化膿性汗腺炎(膿皮症)に効くのかはまだ正確且つ科学的には説明出来ませんが、ニキビにしろ膿皮症にせよ、毛穴が角栓で詰まってしまい皮膚が化膿するという共通点があるため、おそらく表皮細胞の分化や代謝の仕組みがどこかで障害されているというメカニズムを仮説として疑っています。
そしてロアキュタンの主成分であるビタミンAには皮脂の分泌を抑えるだけでなく、表皮細胞の分化と代謝を正常化する作用があることが以前より知られています。 このことが膿皮症の症状を抑える仕組みにおそらくは関係していると考えています。いずれにせよ、重大な副作用がなくこれまで芳しい治療成果を残すことの出来なかった難病を治せるようになったことは重要なことです。
ただしこの治療は、既に長年の化膿性汗腺炎(膿皮症)の経過で、皮膚や皮下にアリの巣状に瘻孔が生じてしまっているような重症の状態を単独で治癒させることは出来ないはずです。このような重度に進行した化膿性汗腺炎(膿皮症)には、まず外科的治療を適切に行い、病巣を完全に摘除(摘出)してしまった後、再発予防としてロアキュタンを投与することには意味があります。
重症化する前の段階(軽度から中等症)であれば、化膿性汗腺炎(膿皮症)治療としてロアキュタン内服は、一度試してみるべき治療法として検討する価値があるでしょう。