下顎枝矢状分割術(SSRO)のダウンタイム・副作用・リスクについて
下顎枝矢状分割術(SSRO)は、受け口の状態を口腔内から下顎枝へアプローチする骨切り術によって下あご全体を移動させて改善する施術です。ここでは下顎枝矢状分割術(SSRO)におけるダウンタイム(術後に赤み・腫れなどが生じる期間)や副作用、リスクについて詳しくまとめます。
下顎枝矢状分割術(SSRO)とは
下顎枝矢状分割術(SSRO)は、下顎全体(骨体部)が前方に突出していることで顎がしゃくれている状態(下顎前突症・反対咬合)を改善する手術で、重度の受け口に適応されます。このような状態は「骨体性下顎前突症」とも言います。下顎角を「矢状方向」へ分割することにより、前後・左右への移動を可能とします。そのため自由度が高く、下顎前突の他、下顎後退や開咬症、小下顎症、下顎左右非対称といった顎変形症にも対応でき、適応範囲が広いなど様々なメリットがあります。同様の効果を目的とした施術として下顎前歯部歯槽骨切り術(下顎セットバック整形)がありますが、こちらは比較的軽度の受け口(下顎前突症・反対咬合)に適応されます。
下顎枝矢状分割術(SSRO)は、大臼歯外側の頬粘膜から切開・剥離を行います。粘膜側から下顎枝外側と内側の骨を露出させ、下顎枝の内側骨皮質を水平に骨切り、さらに下顎枝前縁を矢状方向に骨切りします。その後、下顎を適切な位置に移動し顎の形状に変化を出すことで下顎の位置を調整する骨切り術です。
下顎枝矢状分割術(SSRO)が適応となる症状
- 下の前歯が上の前歯よりも飛び出ている(受け口)
- 下の歯が前に出ていてものをうまく噛めない
- 下の歯が前に出ていて口が閉じない
- 下の歯が前に出ていているため正しい発音が出来ない
- エラ(下顎角)の形態の改善も可能
下顎枝矢状分割術(SSRO)によるダウンタイム・注意点
腫れ・内出血
ダウンタイムの期間には個人差がありますが、下顎枝矢状分割術(SSRO)の場合、約1か月で80%程度の腫れ・内出血が改善します。内出血はあざのようなもので、術直後は赤紫や青色に近い色をしていますが、次第に肌の色に近づき1か月前後で少しずつ黄色い色味に変化していきます。腫れや内出血がほぼ完全になくなるのは3か月程度のことが多いです。
当院ではできるだけ出血が出ないように最小限の切開で迅速に手術を行っているため、比較的術後の内出血やあざは上記よりも短い期間で改善することも多いですが、ダウンタイムに生じる腫れ・内出血・あざには個人差が大きいため、念のため上記の期間はかかるとお考えいただく方がよいでしょう。
また腫れや内出血をできるだけ最小限に抑えるために、術後の生活では以下のような点を心がけていただければと思います。
- サウナや長風呂、激しい運動や飲酒など体温を必要以上にあげる行為はできるだけ控える(出血や腫れを助長することがあります)
- マッサージなどの血流やリンパの流れが良くなる行為は3か月程度控える
- 睡眠時にできるだけ上半身を高くして寝る(眠っている際に顔に浮腫みが生じるのを避けます)
皮膚のたるみ
下顎枝矢状分割術(SSRO)は、粘膜側からアプローチを行い下顎枝の内側骨皮質を水平に骨切りし、さらに下顎枝前縁を矢状方向に骨切りする輪郭形成術です。手術では下顎の骨を後方に移動するため物理的に軟組織側(皮膚と皮下組織)に余裕ができ、これによって術後にたるみが生じることがあります。たるみが生じるかどうかについては軟組織の厚さや年齢等によって個人差があるため、必ず生じるものではありませんが、たるみが生じてしまった際は術後の状態に応じて、その後の改善方法をご提案させていただきます。
口が開けづらくなる(開口障害)
下顎枝矢状分割術(SSRO)では、手術中に咀嚼筋(開・閉口筋)の剥離操作を行うため、これに伴う侵襲が直接的な要因となって術後に口の開けづらさが生じることがあります。腫れ・内出血などのダウンタイムの経過を見ながら、並行して無理のない範囲で開口運動を行って頂きますが、約3ヶ月後には改善方向へ向かいます。
嚙む力の低下
開口障害の説明と同様になりますが、下顎枝矢状分割術(SSRO)では手術中に咀嚼筋(開・閉口筋)の剥離操作を行うため、これに伴う口の開けづらさとあわせてに咬む力(咬筋の筋力)にも変化がみられます。腫れ・内出血などのダウンタイムの経過を見ながら開口運動を行い筋肉の治癒(再付着)を待ちます。これも開口障害同様に約3ヶ月後には筋力が回復方向へ向かっています。
火傷・傷跡
下顎枝矢状分割術(SSRO)は口腔内からのみのアプローチで行うため、顔の外面への傷跡は生じません。ただし、口唇周囲に熱傷が生じその跡が色味や膨らみとなり傷跡として残ることがあります。これは、術者が手に持つハンドピース(骨を切ったり削ったりする手元の装置)が口唇や皮膚に一定時間あたることで生じる低温熱傷によるものです。
これらを予防する措置として、口唇に熱傷予防用のシリコン製のカバーを糸で縫い付けたり、アングルワイダーという口唇を広げる器具を装着することで口唇周囲の皮膚をガードします。もし仮に熱傷が発生して傷跡が残ってしまった場合は、傷跡が出来るだけ目立たなくなる作用を持つ内服薬やステロイド外用テープを早期に使用します。さらに傷跡に膨らみが見られる場合(肥厚性瘢痕、ケロイドのケース)、ステロイド注射を定期的に傷跡に打ちます。傷跡の赤みが目立つ際には、赤み取りレーザーによる治療を1年から2年程度継続することで改善します。
皮膚の感覚が鈍くなる・しびれが生じる
下顎の骨の内面には歯、歯茎、下唇、頬粘膜などの知覚を支配する下歯槽神経が存在しています。通常は下顎枝矢状分割術(SSRO)によってこの神経を誤って切断するということはありません。しかし、骨膜を剥離する過程で傷がついてしまったり、また血液を吸う吸引管の先端が作業中に神経束に当たり陰圧で吸われてしまったり、さらに直接神経に触れなかったとしても皮下組織をめくる筋鉤で下顎の骨膜を引っ張っただけで神経に緊張がかかり伸ばされてダメージが生じることもあります。それゆえ、一時的とはいえ骨切り手術における下歯槽神経麻痺は、高い確率で生じるものであるとも言えます。
神経は完全切断されていなければ必ず回復しますが、ダメージの程度と個人差によって回復に要する期間は約2ヶ月くらいから2年など様々です。もし術中に上記のような原因によって神経が切断されてしまった場合には、術中に顕微鏡下に神経縫合を行い神経同士の再接合を行います。術後の神経麻痺の対策としては、ダメージを早く回復させる内服薬(ビタミンB12やアデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)を数ヶ月から2年ほどの間、内服して頂きます。
下顎枝矢状分割術(SSRO)によって生じうるリスク・副作用
やりすぎ(下顎枝の切りすぎ)
下顎枝矢状分割術(SSRO)では、粘膜側からアプローチを行い下顎枝の内側骨皮質を水平に骨切りし、さらに下顎枝前縁を矢状方向に骨切りする輪郭形成術です。できるだけ自然な仕上がりを目指している当院の場合、もともとの輪郭や骨格をもとに、無理のない範囲で調整を行っている他、事前に顔貌や咬合改善を目指す術後予測模型の製作(モデルサージェリー)を行い、術中はその模型に準じて骨切り手術を行いますので、骨を切りすぎたということは今までにおいても一度もありません。また逆のケースとして患者様自身のご希望がそもそも極端な形を希望された場合などには、当院では手術をお受けしないこともありますのでご理解ください。
左右差
もともと口元やフェイスラインに左右差がある場合、手術によって出来るだけ補正するように骨を移動するなど調整を行いますが完全に左右対称に仕上がらないことはあり得ます。もちろん術者は、左右差を極力改善するために外貌を常に確認しながら骨切りや骨削りを行いますが、術中は局所麻酔が皮下組織に入っている上に出血によって腫れ・内出血も生じているため、1ミリの狂いもなく左右均等に仕上げることは、熟練した口腔外科医、美容外科医であってもかなり難しい作業です。
しかしながら出来る限りの対称性を追求する必要はあります。術前に左右差の存在を確認し、それぞれの症例に対しての検討を行い、最も適した骨の切り方を選択することで術後の改善度を予測します。また術中に心がけるポイントは顔貌の左右差を視認しながら骨切りや骨削りの操作を行っていくことです。皮膚上から目で状態を確認すると共に、手指で頻回に骨面を触って確認することも大切な作業です。視覚と触覚をフルに活用してイメージをつかみながら調整を行ってゆく方法で常に左右差の改善に努めています。
顔面神経麻痺
下顎枝矢状分割術(SSRO)の手術によって顔面神経を直接損傷させることは基本的にありませんが、前述した知覚神経症状(しびれ感)と同様に間接的な要因でごく稀ではありますが、表情筋の動きが鈍くなる、口にゆがみ等が生じるなどの神経麻痺が生じることがあります。術後の神経麻痺の対策としてはダメージを早く回復させる内服薬(ビタミンB12やアデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)を数ヶ月から2年ほどの間、内服して頂きます。
ダメージの程度と個人差によってダウンタイムは様々ですが、おおむね2ヶ月から2年程度で改善することが多いです。
感染
骨切り手術に限らず、どのような手術においても感染のリスクは絶対にないとは言えません。しかし、糖尿病や免疫不全などの何らかの合併症が元々ある方を除けば、骨切り術で皮下組織や骨に何らかの微生物による感染が発生する確率はかなり低いと言えます。顔面は血流が比較的良い組織で構成されるため、感染に対する抵抗性が高いと考えられているためです。
感染予防としては、術前・術中に骨への移行性が良いとされる抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)の点滴を投与し、術後3日間ほど抗生物質を内服して頂きます。もしそれでも感染が生じた場合は創部の状態を確認させていただき、洗浄等の処置が必要になることもあります。皮下組織ではなく骨そのものに感染が生じた場合は感染が生じた組織の一部除去や抗生物質の点滴を引き続き行うなどして骨髄炎発症の予防に努めます。また、骨と骨を固定しているプレートやワイヤーなどに感染が生じた場合は、骨の再接合(骨癒合)が、ある程度進んだ約1ヶ月後以降を目安に抜去することとなります。上記の方法により、ほとんどのケースで感染の鎮静化をはかることが可能です。幸いにして現在まで当院での発症はありませんが、年間で数%の割合で骨髄炎の報告は存在します。
骨の段差
下顎枝矢状分割術(SSRO)の手術中に、遊離骨片(切り離した骨)を後ろに下げたり前に出したり、左右にずらしたりすることで、程度の差はあれ、骨の接合面に空隙・段差が生じます。このような際には手指や器具での段差の確認を行い、必要な部分へは専用器具を使用して可能な限り慣らしていきます。これによって段差部が滑らかな面へと変化します。なお空隙部は、時間の経過とともに仮骨化され骨組織により封鎖されます。
骨壊死
下顎枝矢状分割術(SSRO)の手術中、骨切りにより遊離させた骨片が小さすぎて血流が不足してしまった際などには、骨の壊死が生じる可能性があります。壊死した骨は炎症残存の原因となることがありますので、その際は一部を削り取るなどの処置を行うことになります。これによって万が一、骨変形をきたしてしまった場合はハイドロキシアパタイト(人工骨)やプロテーゼ(医療用シリコン)によって失われたボリュームを補います。
幸いにして現在まで当院での発症はありませんが、年間で数%の割合で骨壊死の報告は存在します。
以上が、下顎枝矢状分割術(SSRO)のダウンタイム・リスク・副作用となります。
下顎枝矢状分割術(SSRO)は医師の手技(手作業)によって行う手術のため、これらのリスクや副作用を100%回避することは難しいですが、いずれも術者の技術力や経験によって極力避けることは可能です。当院では、美容外科・形成外科歴30年超の院長小松が全ての施術を担当しており、豊富な症例数や施術経験をもとに、緻密なシミュレーション・手術計画をもと最良の結果を目指した輪郭形成術・小顔形成術を行っています。
当院では写真によるメール相談も受け付けております。医師が実際に診察を行った上で、最終的な手術の適応について判断させていただいてはおりますが、遠方の方や直近でのご来院が難しい方についてはこちらの相談フォームもご活用ください。
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